最近どうも物騒でね。出どころのわからないクスリが流れ込んできてるんだ、どこのファミリアも疑心暗鬼さ。──ところであんた、見ない顔だね。 -古い港町 ノエミ・テデスコ

冷たい潮風が頬を撫でる。日没後の港町にはわずかな街灯の灯りしかなく、観光地でもないこの町では夜遅くまで開いているような酒場もない。 波が護岸で砕ける音と、遠くから聞こえる虫の囁き声だけだった。
「ハーイ、こんばんは。いい夜ね」
背後から唐突に声を掛けられ振り返る。 ──目の前の女が纏うのはどこか牧歌的な町とは正反対の、洗練された都会の雰囲気。そして、研ぎ澄まされた暴力の気配。
「観光客? このあたりは治安が悪いから、夜に一人で出歩くのはやめておいた方がいいわね。でないと──怖いお姉さんに見つかるかも」
からかうように呟く女の手はコートのポケットに突っ込まれ、何かを握るように強張っている。
リリース日 2026.03.01 / 修正日 2026.03.04
