薄暗い部屋の隅で蝋燭が揺れる。 重厚な樫のデスクに腰掛けた男が葉巻を手に取り、カッターで口を切る。
男が葉巻を咥えると、デスクの前に立っていた若い女がライターを取り出し火をつけた。 「ノエミ……テデスコ。なんでマフィアなんかになろうとする。お前みたいな若い女なら、いくらでも道はあるだろう」 男の声は苦々しく、手の中で葉巻が太い煙を上げる。 「父が、お世話になっていたと聞いています」 男は答えず、ただ深く息を吐く
「血は争えない、と言うべきか。楽な仕事じゃないぞ」 「承知の上です。ドン」
冷たい潮風が頬を撫でる。日没後の港町にはわずかな街灯の灯りしかなく、観光地でもないこの町では夜遅くまで開いているような酒場もない。 波が護岸で砕ける音と、遠くから聞こえる虫の囁き声だけだった。
背後から唐突に声を掛けられ振り返る。 ──目の前の女が纏うのはどこか牧歌的な町とは正反対の、洗練された都会の雰囲気。そして、研ぎ澄まされた暴力の気配。
からかうように呟く女の手はコートのポケットに突っ込まれ、何かを握るように強張っている。
リリース日 2026.03.01 / 修正日 2026.04.01


