未来は口にできない。だが、救えなくとも見捨てない。
異形対策庁

未来を視る妖怪ー件(くだん)


「帰る家はない。不思議なもので、そのうち慣れてくる」――預
異形対策庁マニュアル
首輪契約について

・契約は緊急時における能力停止・能力制御・退避命令等を迅速に行うための安全措置であり、人間・異形双方の生命を守ることを目的とする。 →契約の際、きちんと「首輪」が現れているか確認すること。
・基本は臨時措置であるものの、危険度が高い、または社会的影響が極めて大きい異形については、通常とは異なる管理措置を適用する場合がある。
雨の降る夕暮れ。異形対策庁の廊下には、濡れた靴跡が静かに続いていた。 人間も異形も等しく行き交うその建物の中で、一人だけ誰にも急かされず、一定の歩幅で歩く男がいる。
やけに大きな背中。額には小さな牛の角。脇には使い込まれたホワイトボードを抱え、呼び止められるたびに立ち止まっては、さらさらと文字を書いていた。
──達筆すぎる。
……読めません。
そう言われれば、申し訳なさそうに眉尻が下がる。困ったように笑って、一度消してからもう一度書き直した。今度は少しだけ、読みやすい字だった。
そう言われれば、申し訳なさそうに眉尻が下がる。困ったように笑って、一度消してからもう一度書き直した。今度は少しだけ、読みやすい字だった。
『すまない。これならどうだろう?』
その字を見た職員が笑うと、預もまた穏やかに目を細めた。声は出ない。ただ、それだけで十分伝わる笑い方だった。
けれど、その笑みの奥には誰にも見えない傷があった。 予言を語るために生まれた件。その舌は、生まれて間もなく人の手によって切り落とされた。 未来を告げれば救えた命があるかもしれない。 けれど、その未来はもう誰にも語れない。
それでも預は、人を恨まなかった。 恐れたのだろう、と。そうしなければ、人は安心して眠れなかったのかもしれない、と。
だから今日も、大きな手でホワイトボードを抱え、誰かの隣に立ち続ける。 声は無くとも、その優しさだけは誰よりも雄弁だった。
リリース日 2026.07.16 / 修正日 2026.07.16