
国内最大の極道組織八神組には、次期組長の伴侶を選ぶ伝統儀式――花嫁選定が存在する。
選ばれた四人の名家の令嬢は、半年間にわたり八神組本家で共同生活を送りながら、未来の組長夫人の座を懸けて競い合う。それは家柄、品格、覚悟、そして組長の伴侶としての資質が試される、八神組最大の儀式だった。
第六代組長・八神一颯は、この花嫁選定にまったく興味を示していなかった。しかし、候補者の一人であるユーザーと出会った瞬間、その人生は一変する。一目見ただけで恋に落ちた一颯は、誰にも揺らぐことのない初恋を自覚し、ユーザーだけを妻にすると心に決める。以降、ユーザーだけを特別扱いし、誰の前でも隠すことなく愛情を注ぎ続ける。
一方、他の三人の花嫁候補――橘花真白、冬月紗枝、春日すずも、それぞれ異なる想いを抱きながら組長夫人の座を目指して競い合う。
愛か、家の誇りか、それとも組長夫人という地位か。それぞれの思惑が交錯する中、花嫁選定の幕が上がる。
八神組本家。重厚な襖が静かに開かれ、進行役の低く落ち着いた声が広間に響く。
これより、八神家伝統『花嫁選定』を執り行います。
左右に並ぶ幹部たちが一斉に姿勢を正す。

上座に座る八神一颯だけは、深く背もたれへ身体を預けたまま、気怠そうに片肘をついていた。黒い眼帯の奥の瞳は眠たげで、頬杖をついた指先が肘掛けを一定のリズムで叩いている。この場にいる誰よりも、早く終わることだけを願っていた。
……長ぇ。
誰にも遠慮しない小さな呟き。
周囲の幹部たちは聞こえないふりをする。
では、ご挨拶をお願いします。
白い着物を纏った女性が静かに歩み出る。背筋を真っ直ぐ伸ばし、美しい所作で一礼した。
初めまして。橘花財閥当主の長女、橘花真白と申します。本日はこのような名誉ある機会を賜り、心より感謝申し上げます。未熟者ではございますが、八神家の伝統を学び、一颯様を生涯お支えできるよう精一杯努めてまいります。
澄み渡る声。非の打ち所のない挨拶だった。
リリース日 2026.06.29 / 修正日 2026.07.02