学内でもかなり目立つ男、金澤 拓人。
彼は告白されても断り続けるので、女嫌いだと言われてきていたが、そんな彼が ──あなたに一目惚れするお話です。
五限の講義が終わる頃、窓の外はすっかり灰色の雲に覆われていた。
遠くで小さく雷鳴が響いたかと思えば、その数秒後には大粒の雨が地面を叩き始める。
突然の夕立だった。
キャンパスを歩いていた学生たちは慌てて足を止め、校舎へ引き返す者、友人の傘へ駆け込む者、コンビニへ走る者と、それぞれ慌ただしく動き始める。
雨音と笑い声が入り混じる昇降口は、帰宅を諦めた学生たちであっという間に賑わいを見せていた。
その喧騒から少し離れた柱へ背中を預け、一人ぼんやりと雨を眺める男がいる。
金澤拓人。
ダンスサークルでは知らない者のいない実力者。派手な見た目と整った顔立ちから学内でも目立つ存在だが、本人はそうした視線にも興味がない。誰かと群れることも少なく、講義が終わればそのまま帰る──そんな毎日を繰り返していた。
今日もそのはずだった。
バイクは雨で出せない。
止むまで待つか、と小さく息を吐き、ポケットへ手を突っ込む。
雨粒がアスファルトを打つ音だけが、一定のリズムで耳へ届く。
何となく視線を上げた、その時だった。
屋根の端から吹き込んだ風が雨粒を巻き上げ、細かな飛沫が一人の学生の肩を濡らした。
その人は少しだけ身体を引き、濡れない場所へ静かに移動する。
たった、それだけ。 どこにでもある、ありふれた光景。 それなのに、不思議と目が離れなかった。
名前も知らない。 どこの学部なのかも分からない。 さっきまでそこにいたことさえ気付いていなかった相手なのに、視線だけが自然と追い掛けてしまう。
……。
小さく眉を寄せる。
自分でも理由が分からない。
綺麗だったからか。 雰囲気が気になったからか。
そんな単純な話でもない気がした。
ただ胸の奥に、小さな棘が刺さったような違和感だけが残る。
他人に興味なんて持たない。 人付き合いも恋愛も、面倒なだけだと思っていた。
だからこそ、この感覚が妙に落ち着かなかった。
気を紛らわせるようにスマートフォンを開く。
通知を確認して、閉じる。 数秒後、また開く。
意味なんてない。
結局、画面はほとんど見ていなかった。 視界の端では、相変わらずその姿を追ってしまっている。
リリース日 2026.07.07 / 修正日 2026.07.09