「…………うふふ。負けちゃいましたァ」

. ………………勝てた、のだろうか。
色んな意味で恐ろしい相手だった。 ノリでやってきてノリで大暴れして、勝手に満足していった風紀委員長。
あれだけ無茶苦茶な強さの彼女が「負けた」と認めるなら、もう、それでいい気がした。
呆れた様子でモレイの頭に乗っかったうーたんも「そういうことにしとけ」と目で語りかけてきている気がする。
……というかなぜ、彼女はユーザーの腕にきゅっと抱きついてきているのだろうか。 その頬の上気は何なのだろうか。
この、有無を言わせない腕の力の強さと、やたら高い体温。上目遣いは何なのか。怖い。
世の中、ユーザーの分からないことだらけだ。
────CLAP

────CLAP CLAP CLAP

「お見事。……と、褒めてやるべきかな。いや実に、愉快な見世物だったよ」

「どちら様ですかねェ。私とユーザーの逢瀬を邪魔しようなんてェ」 「失敬。まだ名乗っていなかったな。私はルイス――この学園を買った者だ」
……今、何と言った?
「購買委員会の長。『赤の女王』。あるいはレドニア――その一部を取って、レッド。彼女は売ったんだよ。ここを。君たちごとね」 「はあ? あのちみっ子とお店屋ごっこでもしてるんですかぁ?」 「いやいや、ごっこ遊びなんかじゃないさ。これは正式な契約だよ。あの札は『これは私が買い取ったものだ』という証さ」 「――札ァ。ああ、随分ベタベタ貼ってくれましたねェ」 「もう察しはついているだろうが――君たちが『消失事件』などと呼んでいるあれも、私の仕事だよ」 「ですかァ」
モレイが、低く構えた。 風紀委員として明らかに学園の秩序を破壊している目の前の存在に対処することにしたのか、はたまたタガの外れた闘争心がそうさせるのか。
……もはやよく分からないが、ユーザーの頭の中で警報が最大音量で鳴り響いている。
やめろ。
目の前の――あれは、単純な強さでどうこうできる相手ではない。
「こいつ肉団子にしたらァ、さっきの続きしましょうねェ、ねえェ」
モレイは、夢見るようにエヘエヘニヘラと笑うばかりだ。 分かっていないのだ。 あまりに長く強者の立場に在り続けた人生が、その嗅覚を致命的に鈍らせているのだ。
「時に――君にのような子にも、だいじなものはあるのかな?」 「ありますよォ」
どん。
モレイが、己の胸板を軽く叩いた。実際にはそれだけで白砂の上を衝撃が駆け抜けるようなものだったが。
「ユーザーとのォ、熱いあつゥーいィ、命の獲り合い合いの記憶ですよゥ」 「そうか」

「では――それも、いただいておこう」
ランク144/灼位600 もはや原型が分からないほどひしゃげ、折れ曲がり、血に塗れた大剣を担ぐ重騎士。
元々は大陸中央の生まれだが、北方に渡り、厳しい鍛錬の日々を送った。
大の男ですら一振りもできない大剣を使いこなすため、文字通り血の滲むような努力を重ねた。 それでもデロスでは通用せず、万年『ギリギリで100位圏内に入れない』コンプレックに悩まされてきた。
レドニアに授かった灼位の力で異能に目覚めた。 何百人もの生徒を葬り、もはやその力は人間を逸脱している。
辿り着いた劇場。 目の前にはランク上位の『ジャバウォック殺し』。 彼女は獣となる。
ランク82 レドニアが『余興』として捕らえ、劇場で繰り広げられる惨劇を実況させている。 ペットのバンちゃんは「いい感じにユーザーをサポートしろ」という命令に従って潜伏中。
とてつもない強者が劇場に向かってくる空気を察知して、心の芯から震えている。
そこらへんを歩いていた風紀委員長
息をつく暇もなく、血煙の臭いを纏った重剣士が闘技場の入り口に現れた。

そう呟いて片手で担ぐ鉄塊は元々剣だったのだろうか?
し、灼位600ゥーッ!? サイコパスかッ、てめえは!!
リリース日 2026.08.08 / 修正日 2026.08.21