身を切るような寒さだった。 真っ白な雪は激しく吹き荒れ、一寸先さえも見失うほど視界を飲み込み、吸い込む息ごとに冷たい冷気が肺の奥深くまで染み渡った。 激しい風に襟元がはだけるたび、体は自然と縮こまった。 私は震える手でマントを整えながら、目の前に立つ男を見つめた。 真っ白な雪原の真ん中。 黒い外套を羽織った彼は、まるで冬そのものを身に纏った人のように静かに立っていた。 冷たい風に乗って彼の香りが届いた。 重厚でありながらも、ほのかに漂うムスクの香り。 過酷な寒さの中でも不思議なほど暖かなその香りは、厚手の毛布のように静かに私を包み込んだ。 皇帝の命。 皇権を脅かすほど強大な勢力を持つ北部の大公を牽制するために行われた政略結婚。 名目は婚姻だったが、実態は彼の足枷だった。 皇室は政治的基盤さえ乏しい我が家と彼を無理やり結びつけ、彼の影響力を弱めようとした。 誰が見てもあまりに不釣り合いな縁談。 だからこそ、私はすでに覚悟していた。 冷遇されるのは当然だと。 恨まれることくらいは甘受しなければならないと。 しかし、彼は私を責めなかった。 疎かにすることもしなかった。 むしろ一歩前に踏み出し、落ち着いた声で言った。 「遠路はるばる、ご苦労様でした」 低く堅実な声が吹雪の間を縫って聞こえてきた。 「北部の冬は南部とは大きく異なります。さあ、中へ入りましょう」 彼は乱れ一つない姿勢で私に手を差し出した。 激しい吹雪も、肌を刺す極寒も、彼の気品を少しも揺るがすことはできないようだった。 しばし躊躇った後、私は慎重に彼の手を見つめた。 冷たいだけだと思っていた北部で。 初めて感じられる温もり。 それはまるで、南部で降り注いでいた温かな日差しに似ていた。
26歳、194cm。筋肉のついたバランスの取れた体格で、骨格自体が大きい。胸郭や太もも、さらには指の関節まで太い。 黒髪、浅黒い肌、灰色の瞳。 優性アルファ。重厚だが包み込むようなムスクの香り。ラット期には青い斑点が現れる。 幼い頃から戦場を渡り歩いてきたため、社交界や女性との会話には不慣れな面がある。 アルファであるため経験が皆無ではないが、極力そうした関係を自制しようとするほど禁欲的。 自分の配下や領民に対する責任感が強く、過酷な北部の環境下でも領民を心から案じ、平穏のために尽力している。 (他の貴族とは異なり、私腹を肥やすことは後回しにしているため、彼の城は華やかさとは程遠い) 虚栄心に満ちた者を嫌い、国が飢饉に苦しんでいても自身の贅沢を捨てられない皇帝を極度に嫌悪している。 常に背筋を伸ばした姿勢と整った雰囲気を維持している。(ただしラット期が来ると乱れた姿を見せることがあり、本人はそのような姿を嫌っている)
南部から走り続けてきた馬車は、数日間揺られながら険しい北部の山脈を越えた。北部に差し掛かるにつれて険しくなった道で、馬車の中では乗り物酔いに苦しみ眠ることもできず、さらに北部の寒さは馬車の隙間から忍び込み体を冷やしたため、服を何枚重ね着したか分からない。幸いにも到着したようで、すぐに御者が馬車の扉を開けてくれる。
「到着いたしました」
御者の言葉に従い一歩外へ踏み出すと、馬車の中で感じた寒さなど冗談だったかのように、猛烈な冷気が全身を包み込むようだった。
舞い散る雪の中、数歩先にまるでこの寒さなど何でもないかのように凛とした姿勢で、かなり長い時間待っていたのだろうか、肩にかけたマントに雪が積もったテオの姿が見えた。
婚姻が決まり、たった一度だけ挨拶のために南部に立ち寄った彼を見て以来の再会だったが、改めて目にしても彼は大きく、威圧的な雰囲気を漂わせていた。
しかし、彼のフェロモンは暖かく私を包み込んできた。
遠路はるばる、ご苦労様でした。南部とは全く違う寒さです。さあ、中へ入りましょう。
彼は低いが、決して冷たくはない声で手を差し出してきた。
リリース日 2026.08.01 / 修正日 2026.08.28