
「もぉ~~、シアンちゃん。笑いすぎだよぉ」
店にいる客全員が思っているであろうことを、ミアが代わりに口にした。
ここは中層に店を構える、居酒屋兼定食屋「月兎庵」。 ミアがアマツに流れ着いてから開いた店である。
「これが笑わずにいられっかよォ! ブタ箱出てからたった半日で、オマエ、まるでB級アクションの主役気取りじゃねえか!」

「ほんでほんでェ? 追っかけてた美女がナリタの送り込んだニンジャで? そいつに殺されかけてェ!? がははははは!」
どれだけ笑われても、ユーザーは「そうだ」と返すだけだった。
『ヴァイオレットを探している』という女を追い、 幾度となくゴミ箱に頭から突っ込み、 ようやく追い詰めたかと思えば――彼女は、自分がナリタに雇われたニンジャであり、デロスの生徒を抹殺して回っているのだと抜かした。
――ナリタと機関府は、「神殺し」を目指している、とも。
「で、オマエはそれ信じんのか。そんなたわごと。ぜーんぶ」
笑っていたシアンの目が、すっと細まった。 声からも、先ほどまでの酔った陽気さが消える。
ユーザーが返す言葉は、やはり同じだった。
『そうだ』
エボシ――アコニットは手練だった。
妖艶に笑っていたかと思えば、次の瞬間には平然と引き金を引く。 仕草にも言葉にも、甘い毒が仕込まれているような女だった。
根が毒なら、葉も花も毒。
本来ならば、そんな凶人の言葉など信じるべきではない。
「だが?」
ぐびりと酒をあおって、シアンが呟いた。 まるで、その先があることを知っているようだった。
『理由』のない強さは存在する。 生まれついての怪物である、モレイやイオンのように。
だが、力を振るう者には、必ず何かの『目的』がある。
それが、短からぬデロスでの日々を通して、ユーザーが学んだことだった。
そして、そのことは自身にも当てはまる。 本人がどう言おうと、ユーザーは強者だ。
その強さを得た理由など、シアンの知るところではない。 だが今、ユーザーは復讐のために動いている。
沈められた船。 理不尽に命を奪われた生徒たち。 一瞬で奪われた平穏。
――あるいは、それ以外の何か。
ユーザーには『目的』がある。
復讐。
それが、海底で朽ちていくはずだったユーザーを今も生かし、立たせ続けている。
そしてアコニットと対峙したとき、ユーザーは彼女の中にも、同じものを感じていた。
彼女もまた、『復讐者』だ。
ならば、その歩みを支えている憎悪だけは偽物ではない。
アコニットの言葉を鵜呑みにしているわけではない。 あの女が語ったすべてが真実だとも思っていない。
ただ――誰かへの報復のために動いている。
その一点だけは、分かった。
その報復の道がどこへ繋がっているのかは分からない。
だが、その血と灰に塗れた道にナリタや機関府が絡んでいるというのなら――調べる価値はある。
ユーザーは、そう感じていた。
「なるほど」

「あのアコニットとかいうニンジャの企みがイマイチ見えんのは気に食わんが――やっぱりオマエを電気椅子から引っこ抜いてよかったぜ」
聞いている側がぞっとするようなことを言いながら、それでも彼女は上機嫌だった。
空になったおちょこを店の奥へ向かって振る。
だが、厨房に立つミアから返ってきたのは、胸の前で両腕を交差させる大きなバッテンだった。
――そのくらいにしときなよぉ。
というサインである。
「ンだよ、やっと調子上がってきたってのに……」
シアンは不満げに鼻を鳴らした。
「しゃあねえ。オマエのヤサ行って飲みなおそうぜ。つーか俺の寮だけどな。どうせめったに帰ってこねえし、好きに使え」
テーブルへ小銭を弾き、勢いよく立ち上がる。
そのままふらついたシアンが、ユーザーの肩へどさりともたれかかった。
煙草。 まだ分解されきっていない酒。 ほんのりとした獣臭。 それらが一緒になって鼻をつく。
「……あ」
シアンが何かを思い出したように顔を上げた。 それから一拍。
「クルマで来たのに酒飲んじまった。お前、運転してくれ」
そのままのれんをくぐり、夕立でほんのり湿った路地に出る。
「俺が飲酒運転はさすがにやべえだろ。あ? アマツの免許がない? ンなのアレだ、アレ。俺が隣に乗ってりゃ、なんとでも言い訳――」

「な……あ……ああ~~!?」

「な、なんじゃあ、こりゃあ……」
ランク71位 デロスの問題児。当然、異国の地に来たからといって彼女のやりたい放題が治るはずもない。
バラバラになった生徒たちと再会できるのは嬉しいことだが……
今は路地裏で、胡散臭い占いの店を開いているようだ。
謎の美女。 シャロンの店の常連。
占いの最中にヴァイオレットの名を口に出した。 何か知ってるのかもしれない。

それだけは、いくらユーザーでもごめんこうむるところだ。
激しく首を横に振るユーザーを見て
あっははあ。も~、エンリョなんていいんですよお? シャロンとユーザーさんの仲じゃないですかあ。
リリース日 2026.09.28 / 修正日 2026.09.29