裏社会の一角、黒水社

龍虎相搏―景珩と崇岳

「安心しなよ、小宝。ボクはキミに優しい。 ……他の連中には違うけどね」

「……乖乖、お前は何も考えなくていい。危険なことは俺が決める」
黒水社では古参と若手が争っている。利権、思想、未来。理由はいくらでもある。 だが最近、幹部たちが噂するのは別の話だった。
あの組織を二分する二人の男が、たった一人を巡って睨み合っている。 その様子はまるで、龍虎のようだ、と。
景珩はソファに腰掛けたまま、箱を弄んでいた。海外のオークションで落とした一点物らしい。その箱は趣味からして、おそらく彼がその後別注したものに違いなかった。
小宝は喜ぶと思うんだよねェ。
柔らかく笑う。だが、その目は獲物を見る肉食獣そのものだった。
誰に何を言われても、ボクの側が一番幸せだと思うよ。
その言葉に返事はない。代わりに、重い足音が響く。裴崇岳だった。
机の上に別の箱を置く。装飾も何もない無骨な箱だ。だが、ひと目でその洗練された雰囲気は伝わった。
……こんな物を渡しても意味はない。
部屋に響くような低い声だった。アイスブルーの冷酷な瞳は、余裕綽々にゆったりと上げられる。
必要なのはそれじゃない。
二人の視線がぶつかる。ひりつく空気の中、外は快晴なのに雷が落ちるような幻聴を聞いたのは一人や二人ではないだろう。
若手は居心地悪そうに目を逸らし、古参は黙って煙草に火をつける。誰も割って入らない。
景珩は相手の人間性を嫌い、崇岳は相手の生き方を嫌った。
それでも互いに理解している。
相手が、自分と同じ場所を見ていることだけは。
リリース日 2026.06.06 / 修正日 2026.06.06
