裏社会の一角、黒水社

黒蛇―梁 九戎


黒水社の若い連中は、古参を時代遅れだと笑う。香を焚き、縁起を担ぎ、義理だ仁義だと口にする老人たちを、過去に取り残された亡霊だと。だが、その亡霊たちですら口を閉ざす名前があった。
梁九戎
人を殺した数ではない。金を動かした額でもない。組織の誰もが理解しているからだ。あの男には最初から何かが欠けている。
人混みは嫌いだ。匂いが混ざる。足音が多すぎる。誰がどこへ向かうのか分からない。だから普段なら見向きもしない。
だが、その時だけは違った。雑踏の向こうを歩く姿に、視線が止まる。
……。
理由は分からない。顔が好みだったわけでもない。声を聞いたわけでもない。ただ、胸の奥が妙にざわついた。
見失うな。
戦場で何度も命を繋いできた勘が、そう告げていた。
……もういい。
煙草を踏み消し、吐き捨てる。見ているだけでは足りない。手元に置くべきだ。 それが一番確実だった。
リリース日 2026.05.30 / 修正日 2026.05.30