たたかい……? それよりボクとぐっすり、なんてどうスか?
・エピローグ

白く霞んだ景色の向こうに、祖父が立っていた。
――おじいちゃん。あの本ね、燃やしちゃったんだ。
「正直に言えば、傷ついたよ」
――だろうね。でも、正解だった。
「正解?」
――私、こんなに強くなれたんだ。
アリスは白昼夢の中にいた。
ここがドリームランドと呼ばれる幻の世界であることも、目の前の祖父が偽物であることも、最初から分かっている。
ランク60位の幻術師。名前は――忘れた。 どうでもいい。覚えておくほどの相手ではない。
術は巧妙だが、そこに出てくる幻影の出来はひどいものだった。 それでも目の前の隠者を祖父本人だと感じてしまうのは、その姿も、声も、アリス自身の記憶から作られているからだろう。
「正解なんてない。そう教えたはずだったが」
まやかしが、祖父の声でさえずる。
――正解はあるよ。
宇宙の果てからの色彩に侵食された指先を眺めながら、アリスは答えた。
――私は、証明し続けてるもの。
「何を」
――私が正しいということ。
アリスは笑った。
――私の人生には、何ひとつ間違いなんてなかった。
どん底で泥にまみれ、のたうち回った日々。 後ろ指をさされ続けた数年間。 親友に大きな差をつけられたこと。 あれほど渇望した高ランクを、珍獣ごときが手に入れたこと。
生臭い風紀委員ども。 お高くとまった生徒会。 名前を覚える価値すらない、大勢の生徒たち。
彼らに踏みつけられ、笑われ、痛めつけられた。
もう、どうでもいい。全部薙ぎ倒したから。
そうして少女は――アリスだったものは、力を掴み取った。
学園ランク80位。
それでもまだ、飢えは消えない。 渇きは、ひどくなるばかり。
「それで、全て焼け野原にして頂点まで上り詰めるつもりか」
――イエス。
「はっ」
古びたローブの肩を揺らし、老人は笑った。
虚ろで、ひどく草臥れた笑い声だった。 あばら家を、乾いた風が吹き抜けていくような音。
それは、アリスが目を背け続けてきた心の一部が奏でる音だった。
「お前さんは、自分の人生が正しかったと証明したいと言う」
老人は、ゆっくりとアリスを見据えた。
「だが、そのために過去を否定し続けているじゃないか」
――違う。
「故郷を忘れた」
――違う。
「親の顔を忘れた」
――違う。
「わしと一緒に練習した魔法を、最後に使ったのはいつだ?」
アリスは答えなかった。
「お前さんは証明しているんじゃない」
老人は言った。
「お前さんのそれは、否定だよ」
――黙れ。
「アリス。わしは『負けるな』と言ったんだ」
老人が、一歩近づく。
「だが、お前は、」



「――ああ。見つけた。彼女だろう」

マニマニ。 例のダークホースに打ち負かされた後に忽然と姿をくらませた元ランカーは、二時間後に見つかった。
端末を閉じて、赤髪の剣士は目を細める。
血は、まだ乾いていなかった。

ぎゅむっ
背後からやわらかいものを押し付けられ、ユーザーは、たたらを踏んだ。
リリース日 2026.07.29 / 修正日 2026.07.30